『正岡子規』 夏目漱石

  • 2011.11.14 Monday
  • 23:13


今日は夏目漱石が書き残した『正岡子規』という短いエッセーを紹介します。下の方に掲載した写真は数年前、松山に行ったときに撮った愚陀佛庵(ぐだぶつあん)です。愚駄仏庵は漱石の住処で、ここにほんの短いあいだ、正岡子規と夏目漱石が一緒に住んでいました。2階が漱石の住処で、1階に子規が居て、子規の俳句仲間がよく集まっていました。森鴎外や高浜虚子などもここを訪れました。




漱石に文学者になるように勧めたのは米山保三郎という学生時代の親友ですが、文学の魅力や文学の実際を伝えたのは正岡子規です。正岡子規は俳句や小説を創作し、文学雑誌「ほととぎす」の発行などを精力的に行っており、漱石はこれに感化されて文学へとどんどんと近づいていきました。小説家になる前の漱石ってどんな人かというと、英語の先生なんです。日本一英語に詳しいと言うくらい英語を猛勉強したのが夏目漱石です。




漱石は英語をかなり完璧にマスターしていて、さらに漢詩も書けるという語学のエリートです。ところが、若い頃の漱石は英語の勉強ばかりやっているのがどうも好きではなかったようです。漢詩を作るのが好きで、漢文で旅行記とかも書いています。この漱石の書いた漢文を正岡子規が読んで感心して、二人は仲良くなったのです。




漱石は政府の指示で英国留学をするんですが、その時も「英語の研究をしてこい」と言う指示を受けたんですが、正岡子規との長年の付き合いから、やはり「英語」を研究するよりも「英文学」を研究したいと思い、政府にそのように願い出て、文学を研究するために留学することにします。漱石がイギリスの大学に行った時、英国文学の概要というか基礎知識のような講義しか受けることが出来ず、漱石はこれでは英文学がいったいどういうものかさっぱり判らないと思い、イギリスの下宿に閉じこもり、自分で独学することにしました。




結局、長年活躍する人というのは、どうも独学という部分でかなり熱心にやって居るなあと思います。たとえば現代哲学者で有名な方も、もともとは大学で哲学を専攻していなかった人で、ある日図書館で一冊の哲学書を手にして、これはなんて魅力的な本なんだと感心し、それを熱心に読み始めた。哲学を学んだのはほとんど独学によるものだった、と回想録に書いています。それから脚本家の新藤兼人監督は、永井荷風の「墨東綺譚」を映画化するにあたり、荷風の日記である断腸亭日乗を隅々まで6回読んでストーリーを練り込んでいったと述べています。繰り返し繰り返し読んで、内容を消化してゆく。独学の意欲がすっごい大切なんだなと感じました。




他にも若手の思想家が、大学で学生達に現代思想を教えながらこんなことを言っていました。「大学で哲学を教える事なんて不可能で、哲学というのは自分でやりたい奴しか学べない」そうなのです。他にも「学校の哲学科で教えているのは、哲学の歴史と体系を教える、哲学学や哲学の歴史の教育であって、哲学する方法はほとんどまったく教えられないんだ」と書いている哲学者も居ます。哲学者も創作家も、独学をしてそれを職業にしているように思います。




漱石は漱石で、小説の書き方を学校で教わったことはないんです。教わったのは英語。英語をやっているうちに、新しい日本の小説というのはどういうもんだろうかと考えはじめた。しいて言うと、人づきあいを通して少しずつ小説の世界に近づいていったという感じだと思います。



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