魯迅 故郷

  • 2011.05.12 Thursday
  • 07:00
今日は中国の文学者、魯迅の小説《故郷》を公開します。数十ページほどの、ごく短い小説ですのでぜひお読みください。



魯迅は厳しい状況の若者を辛辣に描ききることで有名ですが、今回は魯迅の小説の中でもっとも静けさのあるものを選んでみました。僕は“自然と人”との関係性を描き出している古典が好きです。それはちょうど、近代美術においてどんなものが好きかと問われた時に、やはりなんと言っても風景を見事にとらえた日本画や印象派や山水画が好きである、と答えるのと似た理由です。文学の場合は人を描き出しているわけですが、その人々がどういう自然の中に立って居るのか、というのを感じさせてくれ、その風景を思い起こさせてくれるものが好きです。



この物語は、中国という非常に広大な大地に生きる人々の一つの悲哀を描き出しています。陸地が途方もなく広いですからひとたび故郷を離れると、二度と再会は叶わないかもしれない。しかし生きてしっかりと生計を立てるには遠い地へと赴き、独り立ちしなければならない。故郷を長らく離れていると、もともと仲睦まじかった人々のこともすっかりと忘れてしまいます。ひさかたぶりに再会した幼馴染みの閏土(じゅんど)。閏土はかつては神話的な魅力を持つ少年でした。父から篤い寵愛を受け、閏土は朗らかな魅力を持っていました。閏土は活力のある少年で、キラキラとかがやいていた。しかし、三十年もの時を経て、閏土との再会をはたすと……。



みなさんは中国というと何を思い浮かべるでしょうか。ぼくは「四川のうた」という映画を思い出します。ツタヤでなんとなくこの映画のパッケージを発見し、その写真のじつに丁寧な色合いに魅入られて借りてみて、どうということもないインタビュー映像の数々に、いったいどうしてこんな映像的魅力が潜んでいるのだろうかと興奮しながら観ていました。この映画は、ある工場で働き続ける人々をノンフィクションとフィクションを交えて、静かに描き出してゆきます。とりわけ豊かでもなく、貧しくもない人々の暮らしぶりが描き出されていて、細部まで丁寧に作り込んでいる映画でした。その映画のワンシーンで、使い続けて短くなった鉄ベラが登場するんですが、ある若者がその短くなったヘラを捨てようとすると、一人の老翁が
「それは多くの人の手を伝わってきた。まだ使える」
と言うんです。じつに小さなエピソードを魅力的に描き出していて、新鮮な気持ちにさせてくれる映画です。日本の伝統工芸もそうですが、ごくふつうのモノなのに特別な気持ちにしてくれる工芸品を、長年作りつづけて世界を繋げ続ける人というのに、ぼくはすごく弱いです。そこにハードボイルドな気配とあたたかさを二重に見出して、おおーっと思うわけです。ぼくはそういった映画がなんとも言えず好きになって、中国に行ってみたりしたんです。



たとえばまだ吐く息が白くけぶる早朝の馬小屋があって、馬の力強い吐息が聞こえてくる。
その馬の蹄鉄に釘をカーンカーンと打ち付けて足まわりを調節し、長旅に備える男の、静けさとかっこよさみたいなものがどうしようもなく好きなわけなのです。そういうの、だれか映像化してくれませんか。だれか。






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