ろくろ首 小泉八雲

  • 2011.07.14 Thursday
  • 06:45


今日は小泉八雲の怪談【ろくろ首】を紹介します。小泉八雲は、『夜窓鬼談』や『仏教百科全書』『古今著聞集』『玉すだれ』『百物語』などを繙きながら、口伝によって残された怪異譚を物語へと編み直していった作家です。単なる文字の記録ではなく、人々がどういう物語を語り継いできたかを丁寧に発掘していった人物です。ただの文字情報というのは、かなりの確率でノイズや偽情報が混じり込み、ヘタをするとノイズのほうが主体となってしまうことがよくよくあると思うんですが、口伝というのは百年とか千年単位で長く伝わってきた事柄の、いわば中核のような部分が残されてゆくことが多いんだと思うんです。




おばあちゃんの知恵だとか、農家の言い伝えであるとか、漁師の知恵だとか、そういう人づてに受けつがれてきたものごとは、けっこう生存にとって重要なことがらをしっかりと良く伝えていることが多いです。「親の言うことは聞くもんだ」とか昔からよく言われますけど、そういうのってけっきょく口伝による知恵が親子間で受け渡されているからなんじゃないかと思ったりするんです。「親不孝もんが」と言われちゃうような場合って、口伝を無視して、単なるノイズだらけの文字情報を信じ込んで、肉親が怒るようなことをやっちゃって恥をかき、お父ちゃんから「親不孝ものめぇ」と叱られてしまう。それはもしかすると口伝を軽視しているからそうなっちゃうんじゃないかと思ったりします。




小泉八雲(本名 ラフカディオハーン)というのは、故郷のギリシャに居た時代から、不幸にも肉親の庇護無く育ってきたわけで、イギリス、アメリカ、日本と、見知らぬ土地でしっかりと生き残らなければならなかった。そこでは、その環境下でいったいなにが重要視されているかを的確に見極めなければならない。それでラフカディオハーンは口伝が重要だなと幼い頃からつねづね感じていたんじゃないかと思います。ハーンは悪質な偽情報や、危機的な噂というものを否定し、重要な部分を抽出できる力を持っていたように感じるんです。




「ろくろ首」という物語には、典型的な人物「囘龍(かいりょう)」が登場します。
なかなか勇ましくてかっこいい人物です。
石に枕し、水に口を漱ぐような野性味のある男です。
この囘龍。もともとは武士で、今は僧侶をしている。どこか、法然とか親鸞によく似ているんですよ。
法然というのはお坊さんですが、ただのお坊さんとはかなり違う。
法然ってもともとは、命をとるかとられるかというような乱世の、勇ましい侍出身なんです。その武士が僧侶に生まれ変わって、日本の歴史を代表する浄土宗の開祖となった。
法然は現代の日本ではほとんど存在していない、主戦主義者ですよ。もともとは。
それが、戦で父が敵に討たれて、すわ仇討ちだ! という時に、いまわの際の父からこう告げられる。「怨みを捨てて、仏法に生きろ」これがただ一人の父からの遺言だったわけです。法然は親の遺言に従って、刀を捨てて僧侶となる。しかし、もともとは戦の男ですから、普通の坊さんとはやっぱりぜんぜん違うんです。




「高尚な僕たちだけが救われるのだ、君たちはダメだ」というような宗教にありがちな「外部排斥」というような世界観ではなくて、「極悪人こそ救われる」(私は悪人であると悩む者こそ救われる)とか、「念仏をたった一度となえるだけで良い。他にはなんにも良さそうなことなんてしなくて良いんだ」というような、万人に対する説得を試みていて、普通の坊さんが考えることとかなりかけ離れている。こういう仏教の魅力については親鸞の『歎異抄』などの本が現代語訳で出ていますから、興味のある方は一度お読みになってみてください。歎異抄というのも、情報のカオス性に惑わされている人々に対して歎いている、という書物ですよ。法然のしっかりとした口伝というのを親鸞が後世に残そうとしたものです。歎異抄は仏教に興味を持たない人にこそ読まれるべき書物じゃないかと思います。




小泉八雲の怪談には、人々が長年受けついできた物語が丁寧に凝縮されています。囘龍という男や、ろくろ首という妖怪の魅力は二面性にあるんですが、その二面性というのが「もともとは戦の男であったのが、故あって僧となった」法然のように、じつに納得のゆく、竹を割ったような人格として描かれています。





http://akarinohon.com/basic/rokurokubi.html (総ページ数 約25枚)

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