耳無芳一の話 小泉八雲

  • 2011.12.02 Friday
  • 00:24


今日は小泉八雲(ラフカディオハーン)の『耳無芳一の話』を公開します。
この写真は、小泉八雲が暮らした家です。
このイスに座りながら、小泉八雲は数々の怪談を書いたのです。

この写真はずいぶんまえに山陰旅行に出かけて、小泉八雲の暮らした家に立ち寄った時に撮ったものなんです。このイスにラフカディオハーンが座って、原稿を書いていたんですよねえ。なんだか文豪の暮らしをほんの少しだけかいま見た気がしました。


ハーンはギリシャ、英国、アメリカ、日本と、さまざまな地へ行き、ここに落ち着いた。ギリシャ生まれのイギリス人にとってこの部屋はいったいどのように感じられたのでしょうか。


『耳無芳一の話』は、目の見えない琵琶法師が怪物に取り憑かれ、すんでのところでこの怪物を追い払う、という物語です。


すんでのところで、難を逃れる。この、『すんでのところで』という表現がじつに上手いです。





こちらのリンクから全文お読みいただけます。
http://akarinohon.com/center/miminashi_hoichi.html (約15頁 / ロード時間約30秒)

ろくろ首 小泉八雲

  • 2011.07.14 Thursday
  • 06:45


今日は小泉八雲の怪談【ろくろ首】を紹介します。小泉八雲は、『夜窓鬼談』や『仏教百科全書』『古今著聞集』『玉すだれ』『百物語』などを繙きながら、口伝によって残された怪異譚を物語へと編み直していった作家です。単なる文字の記録ではなく、人々がどういう物語を語り継いできたかを丁寧に発掘していった人物です。ただの文字情報というのは、かなりの確率でノイズや偽情報が混じり込み、ヘタをするとノイズのほうが主体となってしまうことがよくよくあると思うんですが、口伝というのは百年とか千年単位で長く伝わってきた事柄の、いわば中核のような部分が残されてゆくことが多いんだと思うんです。




おばあちゃんの知恵だとか、農家の言い伝えであるとか、漁師の知恵だとか、そういう人づてに受けつがれてきたものごとは、けっこう生存にとって重要なことがらをしっかりと良く伝えていることが多いです。「親の言うことは聞くもんだ」とか昔からよく言われますけど、そういうのってけっきょく口伝による知恵が親子間で受け渡されているからなんじゃないかと思ったりするんです。「親不孝もんが」と言われちゃうような場合って、口伝を無視して、単なるノイズだらけの文字情報を信じ込んで、肉親が怒るようなことをやっちゃって恥をかき、お父ちゃんから「親不孝ものめぇ」と叱られてしまう。それはもしかすると口伝を軽視しているからそうなっちゃうんじゃないかと思ったりします。




小泉八雲(本名 ラフカディオハーン)というのは、故郷のギリシャに居た時代から、不幸にも肉親の庇護無く育ってきたわけで、イギリス、アメリカ、日本と、見知らぬ土地でしっかりと生き残らなければならなかった。そこでは、その環境下でいったいなにが重要視されているかを的確に見極めなければならない。それでラフカディオハーンは口伝が重要だなと幼い頃からつねづね感じていたんじゃないかと思います。ハーンは悪質な偽情報や、危機的な噂というものを否定し、重要な部分を抽出できる力を持っていたように感じるんです。




「ろくろ首」という物語には、典型的な人物「囘龍(かいりょう)」が登場します。
なかなか勇ましくてかっこいい人物です。
石に枕し、水に口を漱ぐような野性味のある男です。
この囘龍。もともとは武士で、今は僧侶をしている。どこか、法然とか親鸞によく似ているんですよ。
法然というのはお坊さんですが、ただのお坊さんとはかなり違う。
法然ってもともとは、命をとるかとられるかというような乱世の、勇ましい侍出身なんです。その武士が僧侶に生まれ変わって、日本の歴史を代表する浄土宗の開祖となった。
法然は現代の日本ではほとんど存在していない、主戦主義者ですよ。もともとは。
それが、戦で父が敵に討たれて、すわ仇討ちだ! という時に、いまわの際の父からこう告げられる。「怨みを捨てて、仏法に生きろ」これがただ一人の父からの遺言だったわけです。法然は親の遺言に従って、刀を捨てて僧侶となる。しかし、もともとは戦の男ですから、普通の坊さんとはやっぱりぜんぜん違うんです。




「高尚な僕たちだけが救われるのだ、君たちはダメだ」というような宗教にありがちな「外部排斥」というような世界観ではなくて、「極悪人こそ救われる」(私は悪人であると悩む者こそ救われる)とか、「念仏をたった一度となえるだけで良い。他にはなんにも良さそうなことなんてしなくて良いんだ」というような、万人に対する説得を試みていて、普通の坊さんが考えることとかなりかけ離れている。こういう仏教の魅力については親鸞の『歎異抄』などの本が現代語訳で出ていますから、興味のある方は一度お読みになってみてください。歎異抄というのも、情報のカオス性に惑わされている人々に対して歎いている、という書物ですよ。法然のしっかりとした口伝というのを親鸞が後世に残そうとしたものです。歎異抄は仏教に興味を持たない人にこそ読まれるべき書物じゃないかと思います。




小泉八雲の怪談には、人々が長年受けついできた物語が丁寧に凝縮されています。囘龍という男や、ろくろ首という妖怪の魅力は二面性にあるんですが、その二面性というのが「もともとは戦の男であったのが、故あって僧となった」法然のように、じつに納得のゆく、竹を割ったような人格として描かれています。





http://akarinohon.com/basic/rokurokubi.html (総ページ数 約25枚)

貉 小泉八雲

  • 2011.07.05 Tuesday
  • 19:26


今日は小泉八雲の怪談『貉』を紹介しますね。狢。「むじな」と読みます。ほんの3ページほどの怪談です。
これは、小泉八雲の怪談にしては焦って書いているような気がしますし、子ども向きの話に思えますが、僕にはなんだか、本当にこわい話に感じるんですよ。




小泉八雲の怪談と、冴えない無名ホラー創作との違いというのは、やっぱり実際の体験が原形としてあるかどうか、という部分が大きく異なります。小泉八雲は、口伝で怪談の話を直接聞いてみてそれに興味を抱き、そこから文献を調べていって、怪異譚や口伝を研究し、それをみなが聞きたくなるような物語に昇華しているわけです。体験を礎にして創作を行っている。口伝というのは直接話しを聞いて、言葉では伝わってこない気持ちや表情や状況を感じてそれを忘れずにずっと憶えつづけるという長い過程があります。「こういうこわい話があったんだ」と村人同士が実際に話しあった。なぜかそれがいつまでも消えずに残り続けた。小泉八雲はそういう直接聞いた話や、いつまでも憶えていた話ということをすごく重視していて、単なる文字の記録を重視していないんです。




それでこの話は、狢(むじな)という化物が人を驚かせるという話なんですが、人がどうしてそれを驚くかというと、その妖怪は「顔が無い人」に化けるということなんですね。ほんらい口とかほっぺたとかがあるはずなのに、きれいさっぱり無い。顔が無い人にとって、自分はいったい何者だと思えるのでしょうか。自身の顔が無い、というのはとても怖ろしい事だと思いませんか? ふと鏡にうつった自分の顔を見て、もともとあったはずの顔がきれいに白い卵のようになっていたら、「ぜんたい自分は何者なのだろう」と、思いますよ。それまで判っていると思い込んでいたはずのことが判らない、まったく判らないという感覚に包まれる。




僕がこれを恐いと感じるのは、インターネット上でまったく顔の見えない人を相手に言葉を投げかけあっていることが多いからだとおもうんです。たとえば、十年くらいずっと同じ趣味や勉強を続けてそういう記録を残している人のウェブサイトは、もうそのコンテンツを見ただけでおおよその顔が見えてきますよね。安心感があります。でもたとえば出会い系サイトでつい先月知った相手は、もしかしたら真っ白なボールのように顔が無い人なのかも知れない。





http://akarinohon.com/basic/mujina.html (総ページ数 約3枚)

小泉八雲 葬られたる秘密

  • 2011.05.23 Monday
  • 23:41



前回にひきつづき、小泉八雲(本名ラフカディオハーン)の怪談を紹介します。
小泉八雲と言えば「耳なし芳一」が有名ですが、僕はこの「葬られたる秘密」という怪談がいちばん好きです。




この話は、亡くなってしまった《お園》が、幽霊となって箪笥(たんす)の目の前にそっと佇(たたず)んでいる、それはどうしてだろうか? という話です。
幽霊が箪笥の前にしずかに佇んでいる。その理由がまた艶めかしくて何とも言えず、忘れがたいのです。




よほど勘のいい人や覚えの早い人ならともかく、なにか新しい世界に接する時には、どこかヴェールに包まれたような感覚を抱くと思うんです。たとえば英語の教科書で英語を習っては居たのに、実際に英語を聞いていると、その意味が判らず、相手が障子の向こう側に立っているような感覚になる。でもその相手はたしかに目の前にいることだけがハッキリとしている。それは例えば、異性が裸のままで障子の向こう側に佇んでいて、ただそれをシルエットだけ見つめているような感覚です。




なんとなくは判るはずなのに、はっきりとは判らない。わずかには判るけれども、やはり判らない。それで人並み以上にそのことについて調べてゆく。「判らない」という意識を強く持っているのに誰よりも詳しくなってしまう。ラフカディオハーンは故郷ギリシャを離れ、フランス・イギリス・アメリカと地球を半周以上旅してたどり着いた島根でそのようなヴェールに包まれたような感覚があったんじゃないかと感じます。異文化である日本語や日本のことがハッキリとは判らず、理解が困難な世界に対する憧れを強く持っていたんじゃないでしょうか。




「葬られたる秘密」はごく短い掌編小説ですが、幽霊となった《お園》が、なぜ成仏できないのか、というのが上質な怪談として描かれています。




念のために言っておきますが、「艶書」というのは恋文、ラブレターのことです。






http://akarinohon.com/basic/yakumo_secret.html


小泉八雲 雪女

  • 2011.05.19 Thursday
  • 00:11




 今日は、小泉八雲(本名ラフカディオハーン)の『雪女』を公開します。
 もうすぐ夏なんですが、怪談というと夏の風物詩のようになっています。怪談。やっぱり好きです、妖怪。幽霊とか妖怪の物語は、なにか苦難そのものに対して、解決策を提示しません。それで、その苦の象徴である幽霊が、ただ、たたずんでいる、というのを実感する話になっています。




 現代のお話しだと、とりあえずなにかよく判らないものとか問題のある事柄を、どうにかして説明して解決しようとしますよね。でも小泉八雲の物語はちがうんです。
 ただ、そういう幽霊がひっそりと存在している、という「いるよ」という話なんです。しかも妖怪とか幽霊なんだけど、怖いと言うよりも、人間よりも人間らしく、ただただある場に佇んでいる。そして誰かにひっそりと寄り添っている。幽霊と人間が、女と男として愛しあうわけです。幽霊なのにまるで生きているようにしっかと存在している、という表現が堂々としていてすごいなと思います。




 小泉八雲の『葬られたる秘密』というのが、この「いる」という感覚を鮮やかに描き出しています。他にも名作が多数ありますので、今後何作か紹介してみたいと思います。
 ラフカディオハーン(日本人名・小泉八雲)はギリシャに生まれ、軍医である父は外地に赴任し母は精神を病み離婚しました。以後ハーンはフランスやイギリスで暮らしますが、ずっと孤独でした。工業都市リヴァプールで悲惨な労働を目の当たりにして、そういう過酷でがむしゃらな労働をしておったんでは、本当に死んでしまうと感じるわけです。




 それからハーンは自由を求めてアメリカ行きの移民船に乗ります。その渡航中にも嵐と飢えと死が襲いかかります。やっとアメリカで自由を掴んでから、ハーンはアメリカからさらに日本へ向かいます。生まれ故郷のギリシャから遠く遠くへと離れてゆくわけです。




 ハーンにとって日本の出雲・松江というのは幽霊や妖怪や八百万の神の国であって、青年期に居た工業都市リヴァプールからは完全にかけ離れていました。リヴァプールは世界に繋がる港で、そこから遠くアメリカへ、日本へ、そして出雲へと、行けるところまで行き着いた。ハーンにとって日本はひとつの浄土のように感じられたのではないでしょうか。海に浮かぶひとつの浄土としての日本です。




 小泉八雲の暮らした島根は、その文化の発祥自体が特徴的です。
 出雲の文化は、日本初の巨大権力組織であった大和朝廷からの圧政に対抗する形で勃興しました。大和朝廷の絶大な兵力に攻め滅ぼされないために、出雲は天を衝く神社を築きあげ、蛇伝説や妖怪の祟りといったまがまがしいものを取り入れていったのです。そういった暗黒の伝説が時代を経て、静謐な幽霊譚へと移行してゆく時期に、ラフカディオハーンが島根にやって来て、その文化を発掘し広く世界に知らしめたのでした。




 ハーンは島根で美しい異性に出会って結ばれ、そのかつて出会ったことのない日本人女性の清楚さに感動します。そういった実際に体験した喜びから、神秘的な物語の数々が編み出されてゆくわけです。ものすごくうさんくさいことを書いているはずなのに、それが絵空事とは思えないのは、やはり素敵な出会いが創作の礎になっているからなんです。








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